2020年4月16日木曜日

【本】ジッド『田園交響楽』

小説『田園交響楽』は、牧師の書いたふたつの手紙である。


第一の手紙では、ジェルトリュードの目は見えず、その代わりにふたりは清らかな幸福に包まれている。
「目の見える人間は」と、私はやっとのことで言った、「見えるという幸福を知らずにいるのだよ」
「牧師さま、あたしがどんなに幸福だかお解りになって?」

第二の手紙では、ジェルトリュードは視力を回復するが、牧師とともに愛の罪を意識する。
「つい時どき」と彼女は悲しそうにいいついだ、「あなたが授けてくださる幸福は、何から何まであたしの無知の上に築かれているような気がしますの」
心の目が見えるようになることは、アダムとイヴが食べた木の実と同じで、ふたりの無知を終わらせ、楽園を追放させる出来事だった。

けれども、そうして見えているものが現実ではないのだろうか。ひとは、心の目を閉ざしたままではいられない。──