2014年11月29日土曜日

【俳文】札幌便り(25)

いつもの円山公園にて。柳の葉はくるくると散り、地面に着いたのを拾ってみると黄緑色にうっすらと色づいている。遠目には緑の木。

柳散る拾いてみれば色づきぬ

川の水もあとひと月もすれば雪の下かと思う。

せせらぎもあとひと月か文化の日

陽が当たり、銀杏の散り敷くなかを鳩が遊ぶ。

黄葉に鳩が九匹舞い降りる

晩秋のさわやかさがある。家に帰りて生活句を三つ。

柿の皮たおやかに折り重なりぬ

柿は熟している。五五七の破調。蕪村の牡丹の句、「うち重なりぬ二三弁」を思った。次の「きりたんぽ」は残念ながら、冬の季語として認められていないようだ。

きりたんぽがおいしい季節になりました

次は三つの季重なり。鍋に大根をすりおろした。

大根も外も霙(みぞれ)や冬初め

また円山公園を歩く。手入れの行き届いた公園で、小さな小さなトラックが走っている。管理人が落ち葉をかき集める。

軽トラに枯葉を山と積みにけり

落葉樹のなかでも、ポプラとアカナラ、カラマツは最後まで残る。

寒き日にポプラの樹皮をゆく羽虫
ポプラ散る土に着くまでゆっくりと

いよいよ冬が立つ日、ふわふわと舞う雪の欠片が漂っていた。

立冬のちらほら白のゆくえかな
冬来たる白樺の葉はみな落ちて

ある朝、公園の広場ではそこらじゅう水たまりがうっすらと凍っていた。(「つら連なる」は造語。)

初氷つら連なりて大広場

街路で驚いたのは紫陽花の花びら(萼片)が残っていたこと。

紫陽花の時雨てのちの赤みかな

赤紫に変色しているが、まだ茎についている。ここ数日、霰(あられ)が降ったり、ほろほろと少ない雪が降ったりした。

これはほら傘も楽しき霰かな
かんざしの代わりに雪を積もらせて

円山公園の隣、北海道神宮へも足を運んだ。

北海道神宮もやや冬めける

そのままの句を詠んで、東京へ旅立つ月末。旧暦では神無月、出雲へと神々も旅をする時節。北の神々も旅立つ頃だろうか。

青空をそろそろゆくか神の旅

2014年11月28日金曜日

断片:2013手帳より

2013年につけていた手帳から、ブログの書き手の自己紹介代わりに、断片を引用します。

5/6 僕は手紙を書くことが好きだ。

5/28 かみさま、ぼくが愚かなままでいいから、幸運をください。
理性はひとかけら。クッキーのように。

賢くなければ生きてゆけないかもしれないが、愚かさを愛せなければ生きてゆく意味がない。

6/12 人生は小さなところまで意味がある。けれども、全体としてたいした意味はなくてもいい。
(ふり返って眺めた時、意味にあふれている必要はない、が、いまこのとき光に満ちている、五月の林のように。)

6/14 …trotzdem Ja zum Leben sagen. は『夜と霧』の収められた原書だ。「…それでも生に然りと言う」。

6/16 トランクケースには、夢がある。トランク一つで世界を旅する、というような。いいや、旅をするだけじゃなく、それ一つで暮らすんだ。

6/18 生活を変えるときに大切なことは、大きく変えようとすることではなく、確実に変えることだ。たとえ小さな習慣一つでも。

7/15 人には、助けが必要な時機がある。そのとき、ちょうど隣にいられるか、どうか。

8/2 生きることがすばらしいかはわからないが、生きているだけで、そのひとは人生の仕事をまっとうしている。

2014年11月21日金曜日

【ご報告】本のカフェ第12回<特集 池澤夏樹>

日時:2014.11.15. 14時ー17時
場所:北海道立文学館ロビーの喫茶店オアシス
参加者10名と司会の木村。


今回の本のカフェは、今年(2014年)8月に道立文学館の館長に就任された、多彩な活躍を続ける作家、池澤夏樹さんに焦点をしぼって本を紹介してもらいました。

かんたんな案内のあと、自己紹介タイム。今回のお題は「移住してみたい土地」。旅と移住をくり返す池澤夏樹さんにちなんだテーマです。「ロンドン」「ハワイ」「スイス」「沖縄」「アイルランド」「東京」「(札幌の)中央区山鼻」といった土地が並びましたが、とりわけハワイが人気でした。3名が移住したいそう。池澤夏樹さんの著書にも『ハワイイ紀行』がありますが、なるほど、魅力的な土地のようです。


紹介タイムでは、はじめに僕の方から池澤夏樹さんの概説をしました。1945年、帯広生まれ。幸福な幼年時代だったとのちに振り返る、6歳までをこの土地で過ごす。その後、東京へ出るが、27歳でミクロネシアへ旅をしてから、旅と移住、そして地方での生活を愛するようになる。ギリシャに3年(2年半か)住み、沖縄、フランス、現在は札幌に住む。

1988年、『スティル・ライフ』で芥川賞を受賞。ドライなロマンティシズムを感じさせる作品。1993年には『マシアス・ギリの失脚』という長編小説で谷崎潤一郎賞。エッセイ、ノンフィクション、児童文学、エンターテイメント小説といった多彩なジャンルを書き綴るほか、『世界文学全集』を編集。現在は『日本文学全集』を編集し、刊行し始めるところ。

旅する体力、取材の忍耐力、また、文体も書く量もヴァイタリティとエネルギーにあふれている。どちらかというと無造作に書き下ろしていくスタイルをとる。だが、一文一文に無駄がない。自然の大きさと人間の小ささ、限界といったものをテーマに、幸福と希望を感じさせる文学を生み出し続けている。


さて、概説が終わると、紹介者さんが『池澤夏樹の旅地図』と『パレオマニア』を紹介してくれた。『旅地図』からは、エッセンスとなる池澤さんの言葉を次々と抜粋。「自然そのものではなく、自然とひとの暮らしに興味がある、素人文化人類学」「文化は人間を通して土地が自分を表現したもの」など。パレオマニアとは、「古代妄想狂」(誇大ではなく)であり、大英博物館を起点に数々の旅がくり広げられる。重要なところを押さえた紹介でした。


次の紹介者さんは、『静かな大地』。朝日新聞に連載されたのち、大幅に加筆された小説。かつての北海道を舞台に、アイヌの民謡や神話、差別をテーマとする歴史小説で、虚実ないまぜである。明治に静内へ入植した男が、波瀾万丈の末、没落していく様を記す。展開のスピードと波乱で読ませるエンターテイメント。小説であるにもかかわらず、最後に付いている(作品内の)年表が面白く、どこまでが史実か、著者にもわからなくなったそう。


ここまでで90分。この後、90分のフリータイムとなり、円卓のあちらこちらで談笑が始まった。池澤夏樹さんの生活スタイル(旅と執筆)に憧れる、という声もあり、他方、まったく関係のない漫画(『ジョジョの奇妙な冒険』)の話で、作者の荒木飛呂彦さんはアンチ・エイジングの顔をしている!と騒いだり。札幌の歴史の話、豊平がスラム街だった頃の史話もありました。


盛会のうちに閉じられたと思います。二次会は近くのトオン・カフェへ。1人欠けて、10人でゆき、ふたつのテーブルに分かれてあれこれ盛り上がりました。夜ご飯を食べるひとも多くいましたね。19時頃、解散。


みなさま、ありがとうございました。道立文学館でお世話になった副館長の谷口様、融通をきかせてくれた喫茶店の女主人にもお礼を申し上げます。これからも、読書を通じた交流の楽しみが広がりますよう。

主宰・文責 木村洋平

2014年11月19日水曜日

希望

希望とは世界への信頼だ。


2014年11月12日水曜日

【エッセイ】カフェと読書


家で読書をしていると、本のなかに入り込みすぎて、こわくなるときがある。集中力が強くなり、本のなかに没入してしまう。はっと本の外へ出てきて、水のなかから飛び出したように息を吸い込み、本を閉じる。

カフェではその心配がない。カフェの席は、適度なノイズに囲まれている。いくら本を読んでも、半ばは外の世界への配慮がはたらく。

以前、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』をハードカバーで読んだ。場所はスターバックスだった。落ち着いた店内。

ぼくはあまりに物語に引き込まれ、途中で泣き出してしまいそうになった。それでも、おそろしくなって本を閉じなくてよかった。回りには談笑するひとや笑顔でコーヒーを飲むひとがおり、ぼくも外の世界に半分は属していたからだ。けれども、涙で文字が読めなくなったので、諦めて家へ帰った。

それから、ネイティブ・アメリカンについて書かれた本もカフェで読んだことがある。ほんとうは赤茶けた大地のうえか、せめて雑木林の公園のなかで読んだ方がよかったかもしれない(そうしたこともある)。

そういうわけで、心を揺さぶられそうな本を読むときには、落ち着きを求めてカフェにゆきたくなる。

オコタンペの静謐

本を開いていて、心動される文章に出会ったとき、そっと本を閉じてしまうことがある。
そのときには、それ以上を読み進めることができない。
受け止める器の方があふれてしまって、それ以上、文字が入らなくなるからだ。

同じことは太極拳の動画を見ていてもある。
目で見続けることはできても、そこにある動きの容量が大きすぎるので、もうわからなくなるから、画面を閉じてしまう。

それは自然のなかを散策していても起こりうるし、実際、景色があまりに緻密で素晴らしく色合いも形も微妙な変化を含み、美しさにあふれているように思うがために、散歩していてくらっとする瞬間もある。

そこで、心のどこかにオコタンペのような湖があれば、と思う。

オコタンペは札幌の南、支笏湖の北にある「秘湖」のひとつだ。展望台から、遠く青緑の水面を少しだけ覗くことしかできない。

多くのひとに照らせば「ささいなこと」に、心の樹冠を動かされながらも、根の方にあるオコタンペは静謐なままでいてほしい、と。

2014年11月6日木曜日

雨と木曜日(27)

2014.11.6.

スタンディングデスク、をご存じでしょうか。古くは立って書き物をする机でしたが、いまは立ってパソコンを打つ、スタンディング・パソコンデスクがちょっとした流行のようです。在宅勤務のアメリカ人が、高さや角度を調整できるデスクで健康になったとか、教育現場に導入したところ、子供たちの集中力が上がったといったニュースが見られます。僕も高めの台にノートパソコンを乗せて、いまこの文章を打っている次第です。

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長年、珈琲を愛して来たひとならわかると思うが、風邪を引くと珈琲は美味しく感じられなくなる。最近、軽い風邪を引いて痛感した。第一に、集中力がないのでうまく落とせない。第二に、味覚がふだんと変わるようだ。第三に、香りを味わえない。いつもの勘では、きっちり美味しく淹れたはずの珈琲でも、ほとんど風味がしなくて驚いた。本当の原因がなにか、上の三つが主要因なのかもわからない。それでも、じっくり落として飲んでしまう。

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『熊谷守一画文集』を読みました。熊谷さんは1880年生まれの画家。97歳の長寿でした。のっぺりして区割りのしっかりしたシンプルな構図と色使いが特徴、でしょうか。激動の明治〜昭和を生きながらも、若い頃から「仙人」と呼ばれるような悠々たる、ただし、貧乏でもあった、生活を送った風変わりな人物です。生き物が好きで、蟻は左の二番目の足から歩き出す、ことを発見したそう。すっきりした生き方を貫かれたのかもしれません。

「わたしは生きていることが好きだから他の生きものもみんな好きです。」

【書誌情報】
『熊谷守一画文集 ひとりたのしむ』、求龍堂、1998