2014年10月30日木曜日

札幌便り(24)

2014.10月

10月の1日には、東京へ渡った。祖母に最後に会うためであった。

花落ちて生きると書くの落花生

東京は一番、穏やかな季節を迎えており、静かな風のそよぐなかを散歩することもできた。

草刈のかみにあるらし秋の川

川上からちらほらと流れてくる草。フェンスの向こうには保育園があり、体育の日か、運動会を開いている。

万国旗こすもす咲ける保育園

外でコーヒーを一杯、と思うと、おじゃま虫も飛んでくる。

珈琲のそばに止まりぬ秋の蠅

きみも飲みたいのかい?と訊きたくなるが、分けてはあげない。どうも、寒い日もあるとひゃっくりが出やすくなるようだ。

ひゃっくりの止まらぬ夜も虫の声

アンサンブルを奏でてしまう。リズム楽器担当になる。

札幌へ季節はずれの渡り鳥

渡り鳥は、この時期に北国から本州へ来るものだが、僕の場合は逆。帰札した。

薄紅葉色の上着でランニング
ふたもとの七竈の遅速も愛しけり

ともに円山公園にて。こちらは紅葉がひと月早い。タイムスリップした気分になる。ランニングはちょっと高めのウインドブレーカーだろう。ふたもとの句は、ふたもとの梅の遅速を愛した蕪村が本歌取り。

島さんも満足気なり紅葉狩り

北海道神宮には、島義勇(しまよしたけ)の銅像が建つ。蝦夷地の開拓史判官であった人物。また、広々した公園へ足を運べば、

カフェラテをベンチに乗せる照葉かな
パーカーとストール並ぶ紅葉見る

素敵な二人連れがあちらこちらに。仲の良い友達や親子のようだ。

撒き上げる子供の手から銀杏散る
色変えぬ松にならいて杉静か

大人も子供も黄色い銀杏の葉を楽しんでいる。松と杉は常緑樹であるから、見るひともたえてなかりせば、といった風情で静かなものだ。

白樺の幹ひとり立つ冬隣

いつでも気になるのは白樺である。もうすでに大方の葉は散ってしまっていた。

初雪や雑木林の色づけば

もう冬の季語になってしまうが、巨大なアカナラの並木が黄色く色づく頃には、空気もきりりとしまる寒さで、初雪を迎える。

ジャズの音もものがなしきは暮れの秋

晩秋のものがなしさは音楽にも聞こえる。さて、北大(北海道大学)の有名な銀杏並木を観に行った。はらはらと散っているかと思ったが、色づいて間もないようで、なかなか散らない。

銀杏散る千をこらえて五六枚

【エッセイ】雨と木曜日(26)

2014.10.30.


CDの話。子供の頃は、J-POPのCDを持っている、というのが友達の間でステータスになる時代だった。シングルCDは、ふつうのCDの半分くらいの直径しかなく、再生できるのか不安になるプレイヤーもあったのを思い出す。小学生の頃か、父が所有しているCDには、触らせてもらうのにそっと丁寧に扱うよう注意されたのを覚えている。いま、その注意深さの感覚は、紙ジャケットの安価なCDにもレコードのようなレトロ感を醸す。

***

エチオピアのコチャレ農園の珈琲豆をいただいた。僕の好きな「モカ・イルガチェフェ」の一種で、酸味が強い系統なのだが、じっくり淹れてみた。珈琲の概念が変わった。大袈裟に思われるかもしれないけれど、ほんとうに飲んだことがない。つい先日、濃厚なブルーベリージュースを喫茶店で飲んだが、それと同じ味わい。蒸らしの時からブルーベリーの香りが立ち、落とし終えて口に運ぶと、甘酸っぱいジュースのよう。素晴らしい珈琲でした。

***

『マルタの鷹』を読んだ。ハードボイルド小説の元祖と言われるダシール・ハメットの代表作。改訳決定版ということもあり、読み応えがある。原著も99円でKindleで買えたが、決定版とはいえ、やはり英語の感覚を移す難しさ、面白さも感じる。主人公のサム・スペードはタフでハードで、どこか悪魔的な魅力のある探偵。奇抜なトリックや見事な推理ショーよりも、彼の台詞と行動に惹かれる。感情表現を排した硬質な文体も独特。

【書誌情報】
『マルタの鷹 改訳決定版』、ダシール・ハメット、小鷹信光訳、早川書房、2012


2014年10月28日火曜日

【本と珈琲豆】池澤夏樹『マシアス・ギリの失脚』の鳥


「朝から話をはじめよう。すべてよき物語は朝の薄明の中から出現するものだから。」という文章から、この本は始まる。続いて、朝に騒ぐ鳥たちの描写。そこは南の島だ。そこで、「鳥たちは遠い先祖の霊。」と明示的に書かれる。そういう遠い霊的なものと、この現世を結ぶ時空間として、薄明が設定されている。


2014年10月26日日曜日

【ご案内】本のカフェ@札幌<特集 池澤夏樹>


札幌を中心に開催する読書会「本のカフェ」にて、今年8月に道立文学館館長に就任された作家、池澤夏樹さんの特集を組みます。多彩なご活躍がとどまるところを知らない池澤さんの魅力に少しでも迫れれば、と思います。

場所:北海道立文学館のロビーにある喫茶店、オアシス(南北線 中島公園駅、徒歩5分)
日時:11月15日(土)14:00〜17:00 (13:30から受付開始)
定員:12名
参加費:1000円(ドリンク付き)

オアシスのクッキーセット

〜本のカフェとは〜

本のカフェは、好きな本の紹介を通して、集まったひとがゆるやかに交流するイベントです。(これまでの本のカフェの活動については、こちら。)

内容:前半90分は、本の紹介者3,4人が、ひとり15〜20分ほどで本を紹介します。後半90分は、自由におしゃべりするフリータイム。

参加者:紹介者は、紹介する本の現物を持参してください。レジュメは必要なし。オブザーバーはなにもいりません。

 初参加の方もよくいらっしゃいます。お気軽にご連絡・お問い合わせください♪

本の選び方:ふだんはどんな本でもよい「本のカフェ」ですが、今回は、「池澤夏樹」になんらかの関係がある本の紹介を求めています。ただし、関係性は薄くても結構です。

大切なこと:ゆるやかな雰囲気を大切にしたいと思っています。紹介も、思い入れ、感想、あらすじなど、好きなスタイルで楽しく語っていただければ幸いです。逸脱もOK!

主宰:木村洋平(作家、翻訳家)

お申込はこちらまでご連絡ください。

メール:kimura-youhei◆live.jp (◆→@)
Twitter:@ginnyushijin
Facebookページ:「本のカフェ」で検索。

お名前と、「紹介者」か「オブザーバー(聴く人)」を選んでお知らせください。紹介はかんたんな、気楽なもので結構です。初めての方の紹介もお待ちしております。

*ご注意・ご案内*

・メールの際は、毎回、最後に署名かフルネームをお入れください(とくに携帯の方)。

・紹介される本は、『池澤夏樹の旅地図』『パレオマニア』の二冊が決まっています。あとは、『静かな大地』。そのほか、主宰の僕が概説を担当する予定。ほかの本も決まり次第、ここに載せてゆきます。

・お問い合わせは、道立文学館にはおこなわず、主宰の木村へ直接、ご連絡くださるようお願いします。

・本のカフェでは、毎回レポートを作成して記録として残していますが、そこで使う写真は、許可をいただいた方のみ、掲載しております。「写りたくない」とのご希望の方、ご安心ください。

カフェのメニュー

ただいま、道立文学館では「ムーミン展」を開催中。ファミリーも楽しめるし、8冊の小説を読み込んで図解したプレートもあり、映像もあり、写真撮影も可!と、幅広い層に訴えるすぐれた内容となっていました。

初版本だったかな?スウェーデン語

可愛いですね。ムーミンハウスの模型。大きいです。

写真を撮れるスポットもあったので、僕も一枚。(当日、お世話になる喫茶店の女性マスターに撮ってもらいました。)


ムーミン展は11月9日(日)まで!たくさんのお客さんがお越しになっているようですよ。


2014年10月16日木曜日

ネイティブ・アメリカンについての詩

ネイティブ・アメリカン(インディアン)と親交があった著者による詩集より。著者自身は、ふつうのアメリカ人だが、この詩集にはネイティブ・アメリカンの力強い精神が息づいていると感じる。

拙訳でふたつの詩を紹介したい。タイトルはともにない。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

The rock strengthens me.
The river rushing through me
Cleanses
Insists
That I keep moving toward
A distant light
A quiet place
Where I can be
Continuous
And in rhythm with
The song of summer
That you have given me.

岩はわたしを強くする。
川は激しくわたしのうちを駆け抜け
清めながら
告げる
遠い光を
静かな場所を
目指して動き続けよ、と。
そこで居場所を得られるように
あなたがわたしにくれた夏の歌のリズムのうちで。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

Hold on to what is good
even if it is 
a handful of earth.

Hold on to what you believe
even if it is 
a tree which stands by itself.

Hold on to what you must do
even if it is
a long way from here.

Hold on to life even when
it is easier letting go.

Hold on to my hand even when
I have gone away from you.

善きものを握りしめなさい。
それがひとかけらの大地であれ。

あなたの信じるものを握りしめなさい。
それが自らによって立つ一本の木であれ。

あなたがなすべきことを握りしめなさい。
それがここからの長い道のりの果てであれ。

生を握りしめなさい。
それを手放した方が楽なときであれ。

わたしの手を握りしめなさい。
たとえわたしが永遠に去ってしまっても。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
僕はネイティブ・アメリカンの思想、信仰に一番、強く惹かれる。

詩は『今日は死ぬのにもってこいの日』(原題:MANY WINTERS)に掲載されている。上記は拙訳だが、この本は対訳になっている。訳もよい。

また、ネイティブ・アメリカンの生活誌については、河出文庫の『インディアン魂』が緻密でおそらく正確な取材に基づき、良書と思われる。

【書誌情報】
『今日は死ぬのにもってこいの日』、ナンシー・ウッド著、フランク・ハウエル画、金関寿夫訳、めるくまーる、1995
『インディアン魂』、レイム・ディアー口述、リチャード・アードス編、北山耕平訳、河出書房新社、1998

2014年10月10日金曜日

【レポート】本のカフェ@函館、蔦屋書店

2014.9.20.(土)15:30 - 18:00


函館の蔦屋書店さんにて、本のカフェ第11回を開催してきました。函館の蔦屋さんは、"TSUTAYA"と同じ系列ですが、お店作りにこだわり抜いた高級志向のブランドで、代官山が1号店になります。2号店がここ、函館なのですね。




「書店」と言いつつも、化粧品から文具、音楽のレンタルと販売など文化的な要素が詰まった「文化のショッピング・モール」のような場所。子供が遊ぶスペースもあり。スターバックスも入っていますし、カジュアルからきちんとしたお食事までできるレストランも2階にあります。そして、とにかく広い。

ここは生活雑貨

右手にスターバックスのカウンターがある。


ふだんは撮影禁止なのですが、今回は、本のカフェ主催者ということで、とくべつに許可を得て店内を撮影できました。

中央広場のような場所



さて、2階のレストランFUSU(フースー)さんの個室にて、本のカフェが始まります。参加者は6名。(主宰を除く。)ほんとうはあとお二方来られる予定でしたが、やむを得ない事情でキャンセル。



自己紹介タイムでは、「好きな文具」というお題で各自、答えていただきました。マスキングテープを数十本(!)持っているという方から、ジェットストリーム(ボールペンですね。)好きがおふたり、キーボードにこだわりがあり、アームレストのあるものがよいとのご意見も。Macの大きなモニター、Kindle、猫のデザインの雑貨など。


一冊目は、『アラブから見た十字軍』。アラブの春はなぜその後うまくゆかないのか。素朴な疑問から紹介者さんが手に取ったのは、西洋の十字軍をアラビア側の資料をもとに描き出した本。キリストの墓を奪回するために、行く先々の村を焼き払い、略奪し、奴隷を売り、町を支配しながら進軍する十字軍が浮かび上がる。「歴史は覚えるものではなく、ひもとくもの。世界の認識が変わる。」と、もともとは歴史ぎらいだった紹介者さんの談。


 二冊目は、村上春樹『1973年のピンボール』。村上春樹では、初期の三部作(『風の歌を聴け』〜本作〜『羊をめぐる冒険』)が好きだという紹介者さん。ほとんどが比喩で書かれた小説。センテンスが短く、詩のよう。『ノルウェイの森』からヒット作を出し続ける春樹氏は、とあるインタビューで「風の歌を聴けと1973年〜は、失敗作」と言ったそう。また、「易しい言葉で難しいことを語りたい」とも。それで翻訳調の文体なのか。


三冊目は、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』。イギリスの女性で探検家。明治の東北、北海道を探検した。横浜〜東京〜栃木〜新潟〜青森〜北海道とゆく。通訳兼助手を連れてのひとり旅。読みやすくイメージしやすい文章は「言葉の写真」のよう。日本人を格下にみてけなし方がきついものの、アイヌの人々を好意的に眺めてよく褒める。彼らの話の聞き取りもしている。紹介者さんは、伊達の善光寺の夕焼けの名文に惹かれる、という。


フリータイムは1時間。オーガニックコーヒー、ベイクドチーズケーキなど見るからに美味しそうな注文を追加しつつ、コーチャンフォーの展開、函館の本屋一覧の話など。ローカルトークで、「おばけトンネル」や昭和温泉。おいしい居酒屋や海釣りのポイントの話。リュートを流す「ほほえみ」という食事処があるという噂も聞きました、いまもあるのでしょうか。


今回は、初の函館開催でしたが、親切な蔦屋書店のスタッフの方々のおかげで、準備のときから大変、助けられました。また、受付・撮影を担当してくださったWさん、広報を手伝ってくださった方々、札幌から馳せ参じてくださった紹介者の方を含め、参加者のみなさまにも厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。函館、第二回があれば、またよろしくお願いいたします。

主宰・文責 木村洋平

2014年10月1日水曜日

「ロバのおうじ」リュートと朗読



先日、札幌で「ロバのおうじ」朗読音楽会を聴いた。リュート奏者の永田斉子さんが主宰している音楽会で、「ロバのおうじ」という絵本を朗読者が読みながら、それに合わせてリュートを奏でるというもの。

「リュートソング」でも「リュート弾き語り」(ひとりでやる)でもなく、朗読者の方と協力しながら、さらに、プロジェクターで挿絵も場面ごとに投影しながら、リュートを奏でる、めずらしい試みだ。

「ロバのおうじ」はグリム童話を下敷きに、子供向けに翻案されたおはなしで、ほるぷ出版から出ている絵本をもとに台本を組んでいる。あらすじはかんたんで、ロバの姿で生まれたおうじが、おひめさまの愛を得て、幸福になる物語。

おはなしでは、このロバのおうじさまがリュートを弾くという設定になっており、そこで、物語全体にわたって永田さんのリュートが伴奏をつける。すべて永田さんの選曲で、どこかで聴いたことのある民謡調のものから、ダウランドの有名曲も入る。

リュートを伴う朗読は、古くはアラブの慣習に遡り、アラブの楽器「ウード」がヨーロッパに移入して「リュート」となる流れに伴って、ヨーロッパに輸入された。アラブでも詩の伴奏にウードが用いられたし、ヨーロッパのリュートは叙事詩、英雄の物語などに伴われたという。たとえば、12、13世紀のシチリアがそうであった。

さて、リュートと朗読、それも30人規模のギャラリーでの演奏はすばらしい聴き応えだった。100〜200人のホールでのリュートソング・コンサートは聴いたことがあるが、リュートは歌声にかすんでしまいがち。この小さなスペースだと、リュートの音色がふくよかに響き渡る。

また、朗読者の声とリュートが、ちょうど同じくらいの音量で響き、平行し、絡み合い、掛け合いをするのも面白い体験だった。おふたりは左右に分かれて座るのだが、右から朗読が、左からはリュートが、ときにそれに先んじて、ときに遅れて奏でられる。

永田さんは、この朗読音楽会を通じて、リュートを知らないひとにも馴染んでもらおうと、リュートの普及も目指されている。今後、活動を本格化させてゆき、全国を公演して回ろうとのお考えもあるようだ。すばらしい取り組みだと思います。

これから、あなたのまちで「ロバのおうじ」朗読音楽会があれば、足を運んでみてはいかがでしょう。リュート愛好家のひとりとして、リュートや古楽と呼ばれる音楽に馴染みの薄い方にも、すでに十分、それらを楽しんでこられた方にも、おすすめしたい公演です。

blog : 永田斉子の『リュートと過ごす日々』
【書誌情報】ロバのおうじ、M.ジーン・クレイグさいわ、バーバラ・クーニー絵、もきかずこ訳、ほるぷ出版、1979