2014年9月15日月曜日

【本と珈琲豆】『自選 谷川俊太郎詩集』

〜「本と珈琲豆」は書評コーナーです〜


 2013年に岩波文庫から出た「谷川俊太郎詩集」は自選である。しかし、「文庫版の選詩集がもう何冊も出ているから、それらと重複するような本にはしたくない」。また、「世間ではさほど評価されていないが、自分では気に入っている作がある」。「まえがき」より。それにしても、生前に岩波文庫に入るひともなかなかいない。




好きな詩を3つ選んでみた。

ここ

まず
くつろいで
靴ぬいで
手も足も
のばせるだけのばして
ここはどこ?
ここはここさ
空のした
星のうえ
人々のあいだ
きみたちふたりの
いまいるところ

とりあえず
くつろいで
ここでここの
風をかぐのさ
ここでここの
光を見るんだ
ここにここの
今日がある
何もない床の上
毛布にくるまり
愛しあうんだ

くつろいで
ツバメが飛びかう
ハトが鳴く
……

だからね
なにはともあれ
くつろいで
好きな人には
手紙を書いて
きらいな人にも
葉書は書いて
それから
……

『空に小鳥がいなくなった日』より。[……は省略。]

次へ。

ケトルドラム奏者

どんなおおきなおとも
しずけさをこわすことはできない
どんなおおきなおとも
しずけさのなかでなりひびく

ことりのさえずりと
ミサイルのばくはつとを
しずけさはともにそのうでにだきとめる
しずけさはとわにそのうでに

『クレーの絵本』より。

『クレーの絵本』は僕の一番好きな詩集だ。

私たちの星

はだしで踏みしめることの出来る星
土の星

夜もいい匂いでいっぱいの星
花の星

ひとしずくの露がやがて海へと育つ星
水の星

道ばたにクサイチゴがかくれている星
おいしい星

遠くから歌声の聞こえてくる星
風の星

さまざまな言葉が同じ喜びと悲しみを語る星
愛の星

……

『みんなやわらかい』より。

どちらかというと、ひらがなで書かれた詩に好きなものが多かった。

最後に、「解説」より。谷川さんの人柄に触れた部分。
谷川さんは、人とべたべたしない。常々、自分はデタッチメント(距離をおいてつきあう)の人だ、と自己規定していて、うっかり人に近づいて人間関係にしばられないように注意をはらっていた。アタッチメント(愛着)の人ではないんだよね、とも言っていた。
ここは、彼の詩を見るときに活きるエピソードだと思った。

【書誌情報】『自選 谷川俊太郎詩集』、岩波書店、2013