2015年7月3日金曜日

【古楽ラノベ】こがくりお〜第五幕「花咲くルネサンス合唱部」

第四幕「鋼のリベラルアーツ」よりつづく。


あらすじ:ゆる古楽部を立ち上げた佐藤りゅーとは、森田ウードという部員を得る。授業中にもかかわらず、リュートの起源についてアツく語り合っていたふたりは、厳しく先生に咎められてしまう。

***

俺と森田はさすがにしんとなって授業が終わるのを待った。美人講師は「リベラルアーツの歴史」をよどみなく語り終える。「なにか質問はありますか。ないですね。以上」


ふう、と息を吐く。隣の森田は平然としている。そこへ、教壇を降りた先生がツカツカと歩み寄ってきた。タイトなスカート、着こなされたスーツ、黒縁のメガネ。

「あなたたち、名前は?」
「森田ウード」と、森田はまっすぐに見据えて答えた。
「そっちの君は」
「佐藤りゅーとです」
「わたし」

そこで、先生は黒縁メガネのつるをつまむと、爽やかな風が吹くようにそれを取り去った。ぱっちりしたふたつの瞳が潤いを湛えて、やさしく微笑む。

「原田フローラというの、よろしくね」花咲くような笑顔。

「はあ…」俺はわけがわからない。
「よろしくお願いします」森田、少しは動揺しろよ。

「先生、そのメガネ」と俺が言いかけると、
「そう!わたし、メガネをはずすと性格が変わっちゃうの。いまがほんとのわたし。授業のときは、マジメにやらなきゃと思って、マジメガネをかけるの。魔法みたいでしょ?」
それでまたチャーミングに微笑まれても。
「魔法少女、なんてね。うそうそ、魔法おばさんかしら?」
どちらにしろ、イタイです。
「魔法のおねえさんじゃないですか」と森田。
おい、いまその返答が出るって、媚びを売っているのか、マジなのか。
「ま、それはともかく」先生はにっこりと含み笑いをした。「わたし、ルネサンス合唱部の顧問で、指導もしているのよ。あなたがた、ゆる古楽部を立ち上げたんですって?」
「ええ、まあ、そんなような」と俺は生返事。
「ステキ!先生も混ぜてもらいたいな。顧問はマンロウ先生だっけ?」
「そうです」
「いま、旅に出ちゃっているのよね。ふしぎなひと」
あんたもな。
「わたし、君たちの活動、応援してるから。もちろん、ジョスカン・de・playのみんなにも、告知しておくね」
「ん、ジョスカン……?」
「ウチの合唱部。いい名前でしょ。ルネサンス音楽をplayするからね」
でも、何語のネーミングなんだよ。
「そうそう、ひとり女の子がゆる古楽部にすごく興味をもっていて……」
「え」と俺は色めきだった。「今度、部室を訪問してよって、伝えてください。部員募集中なんです」
「うん、伝えておく。ね、音楽はリベラルアーツなのよ」

原田フローラ先生は、ウインクして走り去った。