2015年12月2日水曜日

【本と珈琲豆】水木サンの幸福論


水木しげるの幸福論。「幸福の七箇条」と解説がついている。


七箇条を載せておこうか。

第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 なまけ者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。

それぞれにかんたんな解説がついて、わずか20頁ほどの幸福論である。

ちなみに、「なまけ者」については、若いうちは必死に努力する方がよいと書いてあり、中年以降、「なまけ」がないと、仕事が続かなくなる、という意味。

だから、あくまで仕事がベースであって、ただなまけていなさいという話ではない。事実、水木サンは40歳を過ぎて「ゲゲゲの鬼太郎」がヒットするまで極貧生活、50過ぎまで脇目もふらず多忙を極めたとのこと。

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さて、幸福論のあとは「私の履歴書」という自伝物語なのだが、そこに印象的な文章があった。20代で南方の戦地に送られ、生と死が境を接する日々のなかで知り合った、現地の島の部族との交流の話。

「人は大地に生まれ、大地に還っていく。金もうけや出世にあくせくせず、山や川、草木に抱かれて、小動物や虫たちとも一緒に暮らし、土地に還るのもいい、と思った。この気持ちは私の中でぐんぐん強まり、揺るがなくなっていった。とにかく、現地の暮らしが性に合うのだ。彼らといると、シアワセなのだ。安心してココロ休まるのだ。
 特に惹かれたのは霊的なものを尊ぶさまざまな行事で、大地や生き物たちに感謝する「シンシン」という踊りに、私はとりわけ熱狂した。体が自然に動き、踊りの輪に加わって恍惚とする。何かが乗り移ったような異様な興奮と感動が、私の全身を包み込むのである。」(p,109)

水木サンらしいな、と思うとともに、ネイティブ・アメリカンの儀式や自伝を思い出した。大地とともに、自然とともに生きる。


【書籍情報】
『水木サンの幸福論』、水木しげる、角川文庫、2007