2015年12月30日水曜日

雨と木曜日(69)

2015.12.31.


今回は、東京の冬、雑感〜地元の珈琲屋さん〜旅のラゴス。


東京へ帰ってくると、暖冬のせいもあってか、温かい。冬は札幌から来るたびに「春みたいだ」と思うのだが、それでも枯れ草の風にそよぎ、弱るのを眺めると冬のひたひたと寄せるのを感じる。浅い川の流れは、きらきらとまばゆい陽を照り返すが、桜の時分の温もりもなければ、夏の輝かしさもなく、ただもっとも純粋なひかりらしいひかりに目を休める。それは透き通るような心地がするので、遊歩道を歩くのは飽かず楽しい。

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地元の珈琲屋さんで数年ぶりに珈琲を飲んだ。ネルドリップでしっとりと落としてくれるが、やさしい味でまろやかにまとまり、中深煎りであるのに、苦々しさやとげとげしさのないジューシーな珈琲である。「今日のコーヒー」は、ストレートコーヒーから選ばれるのではなく、ブレンドのなかからひとつ選ばれて、二杯分のボウルで提供される。値段は変わらない。ちょっと贅沢なたゆたい。ぜんぶは飲みきれないのだけれども……。

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筒井康隆の長編『旅のラゴス』を読んだ。ああ、おもしろい。読み終えてしばらく経っても、まだ草原に風が吹いているような爽やかな読後感が持続している。主人公のラゴスは、SFとファンタジーを足して二で割ったような世界で、旅をしている。「転移」(ワープ)したり、恋をしたり、奴隷になって年月を過ごしたり、およそ20歳の頃に旅立って、ひとつの達成をしてから、なお物語は終わらずに70歳までを描く。淡々と豊かな歳月の果てに。


【書籍情報】
『旅のラゴス』、筒井康隆、新潮文庫、1994(初版は昭和60年)